Enjoy Reproductive Systems

RESEARCH 研究紹介

植物受精グループ

 植物受精グループでは、トレニアやシロイヌナズナなどを用いて、花粉管ガイダンスや重複受精の仕組みを解明する研究を行っています。

花粉管ガイダンス

 花粉が雌しべに受粉すると種子ができることは、よく知られています。しかし、受粉は植物の受精のほんの始まりです。花粉から伸び出した花粉管という細胞が、雌しべとの複雑で精密な細胞間シグナリングにより、花粉の数十から1万倍近い距離を伸び続けて、標的の卵装置(胚のう)にたどり着きます。花粉管は雌しべから道案内を受けることで、この長い距離を迷うことなく伸長します。その伸長方向制御のしくみを、花粉管ガイダンス(花粉管誘導)と呼びます。
雌しべは様々なしくみで花粉管をガイドします。化学屈性、機械的な方向性制など、さまざまな説が唱えられており、まだまだ多くの謎が残されています。明らかなこととしては、花粉管ガイダンスは多段階のしくみであり、花粉管の通り道にあるそれぞれ組織が連続して花粉管をガイドすることで、花粉管を最終地点まで導きます。
 私達の研究室では、トレニアという卵装置が突出するユニークな植物をもちいて体外受精系を開発しました。そして紫外線レーザーで細胞を1つずつ破壊することで、卵細胞の隣に2つある助細胞が、花粉管ガイダンスの最終段階で花粉管を正確に誘引する細胞であることを見出しました。そして最近、助細胞が分泌する花粉管誘引物質が、複数のペプチドであることを明らかにし、これらをLUREと名付けました。140年以上に渡って探し求められてきた物質を発見したことで、花粉管ガイダンスに関わる様々な興味深い分子機構が、私達の研究室で明らかにされつつあります。モデル植物シロイヌナズナにおける研究も進展しています。私達の興味は、花粉管が誘引シグナルを受容し応答するしくみや、花粉管が誘引シグナルに応答できるようになる受精能獲得のしくみ、助細胞以外のガイダンス因子の探索など、次々に広がっています。そして、雌しべの中での複雑なシグナリングの実態の解明を目指す、ERATO研究にも発展しています。

重複受精

 最も進化した植物である被子植物(高等植物)は、重複受精というユニークな受精様式を示します。進化の過程で鞭毛を失った被子植物の精細胞は、自ら泳いで移動することができません。花粉管細胞が精細胞を内部に取り込み、卵細胞近くまで運ぶことで、受精が達成されます。花粉管の中で縦に二つ並ぶ精細胞は、胚のうの中で放出されると、一方は卵細胞と受精して胚を、もう一方は中央細胞と受精して胚乳をつくります。これを重複受精と言います。重複受精とそれに伴う素早い種子形成は、乾燥条件や短い時間でも子孫を種子として残すことができるしくみです。雨でできた砂漠の水たまりで、植物が一斉に芽吹き、花をつけ、結実することは、典型的な例と言えるでしょう。約760種しか存在しない裸子植物で様々な受精様式が見られるのに対し、25万種に及ぶとされる被子植物では重複受精機構が普遍的に見られることからも、重複受精による種子形成機構のしくみが被子植物の繁栄をもたらしたと考えられています。
 重複受精は、このように被子植物にとって重要であるだけなく、穀物生産など、我々人類にとっても重要な機構です。しかし、花の奥の組織内部で起こる現象であるため、そのしくみは、長いあいだ神秘のヴェールに包まれるかのように謎に包まれてきました。私達の研究室では、トレニアやシロイヌナズナを用いて、ライブイメージングによる重複受精機構の解析に初めて成功しました。その結果、泳ぐことのできない2つの精細胞が、花粉管から放出される勢いにより受精のポイントに運ばれて、卵細胞と中央細胞の間にしばらくとどまって重複受精していくことを明らかにしました。これまでの予想と違い、花粉管内での前後の位置によって受精相手が決まっているわけではないことも明らかになりました。これらの結果は、なぜ2つの精細胞がそれぞれ異なる相手と確実に受精できるのかという、重複受精の基本原理を解明するための大きな手掛かりとなります。私達の研究室では、さらに可視スクリーニングによる受精関連因子の探索や、顕微細胞操作による受精機構の解析なども合わせ、重複受精機構の解明を目指した研究を展開しています。

ミトコンドリア機能グループ

 ミトコンドリア機能グループでは、ミトコンドリア核様体に注目した研究を行っています。
 細胞活動に必要なエネルギーであるATPを合成するミトコンドリアは、α-プロテオ細菌(好気性細菌)が真核細胞の先祖に共生することにより誕生したと考えられており、独自のDNAを持っています。ミトコンドリアDNAのサイズは、細菌と比較して非常に小さく、ミトコンドリアを構成するタンパク質のほとんどは細胞核にコードされています。しかし、ミトコンドリアDNAには、電子伝達系などに関与するタンパク質がコードされているために、正常なDNA機能発現(複製・転写・翻訳・修復・組換えなど)は生命の維持にとって非常に重要です。
 生体内でミトコンドリアDNAは、多くのタンパク質と複合体を形成し、ミトコンドリア核様体として存在しています。私達の研究グループでは、高度に発達したミトコンドリア核様体をもつ真正粘菌を用い、in vivoの構造と機能を反映した高純度のミトコンドリア核様体の単離法を開発しました。そして、ミトコンドリア核様体がミトコンドリアDNAの機能発現のマシナリーとして働くことを明らかにしてきました。また、ミトコンドリア核様体タンパク質を解析することで、ヒストン様タンパク質であるGlomをはじめとして、様々なミトコンドリアDNAの機能発現に関与する興味深いタンパク質の同定に成功してきました。また最近では、最も小さなミトコンドリアDNAを持つマラリア原虫においてもミトコンドリア核様体が存在することを明らかにし、真正粘菌のDNAポリメラーゼのアミノ酸配列を利用することで非常に特殊な性質をもつマラリア原虫のミトコンドリアDNAポリメラーゼを同定しました。さらに、真正粘菌で得られた知見をもとに、ヒトや植物のミトコンドリア核様体の研究も推進しています。

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